「同性婚」改憲の誘い水? 自民党幹部が言及
4日に召集された臨時国会のテーマの一つが憲法改正だ。安倍晋三首相は所信表明演説で憲法を「国創りの道しるべ」と表現して国会での議論を求めた。改憲といえば憲法9条が最大の焦点といわれるが、最近はこれまであまり話題にのぼらなかった憲法24条がにわかに注目を集めている。同性同士の結婚「同性婚」を憲法で認めるか否かについてが論点だ。
■首相に近い下村氏が
発端は9月21日、自民党の下村博文選挙対策委員長が改憲の検討対象に同性婚を挙げたことだ。下村氏は首相と近い上にその直前まで党憲法改正推進本部長だった。もともと憲法が焦点になるといわれていた臨時国会の直前の出来事に「自民党が同性婚を改憲の誘い水に使うのでは」との観測が広がった。
憲法24条は婚姻を規定する。「婚姻は、両性の合意のみに基(もとづ)いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」と明記している。
下村氏は条文にある「両性の合意」を「両者の合意」と書き換える案に言及したという。男性と女性の合意ではなく、性差を超えた合意でも婚姻を認める変更だ。自民党は2018年3月に4項目の改憲案をまとめている。(1)自衛隊の明記(2)緊急事態条項(3)参院選の「合区」解消(4)教育充実、の4つで、同性婚は含んでいない。
下村氏は10月9日、自身のフェイスブックで「今回の発言はあくまで他党が前向きに議論をするということであれば、憲法24条の改正案なども憲法審査会の場で議論をするべきということです」と発信した。自民党の改正案として示したのではなく、他党が提起してきたら憲法審で議論をしたいという主張だ。
■国民民主が同調
改憲論議に前向きな国民民主党が足並みをそろえた。玉木雄一郎代表が2日に「憲法で『両性』と書いていることを『両者』と書けば同性婚も憲法上認められる。そういった議論も憲法の議論としてはあり得る」と表明した。同党は首相が名前を挙げて改憲への協力で秋波を送る党だ。今後、同党が改憲案をまとめた場合には、同性婚の容認が改憲勢力との結節点になるかもしれないと連想が膨らむ。
野党には同性婚を認めようとする政党が多い。6月には立憲民主党、共産党、社民党が同性婚を認める民法改正案を提出している。それなら同性婚を認める改憲に乗り気かと思うが、そうではない。
下村氏の発言を受け、立憲民主党の枝野幸男代表は「同性婚を認めることに積極的ならば、わが党の法案に賛同してほしい」と語った。共産党の志位和夫委員長は「現行憲法のもとでできる」と述べた上で「同性婚まで改憲に利用するのか。改憲の大義がないということを自分で言ってるようなものだ」と批判した。
■改憲か法的措置か
公明党も党にチームを設け、同性婚を支持する方針を示すか検討中だ。改憲はどうか。北側一雄憲法調査会長は3日、記者会見で問われると「同性婚も含め憲法審査会で論議するのはいい」と話した。ところが「憲法24条は別に同性婚を排除しているものではない。これも議論していただければと思う」とも語った。
これは安倍首相が示した政府見解に沿った発言といえる。首相は15年2月の参院本会議で「現行憲法の下では同性カップルに婚姻の成立を認めることは想定されていない」と述べた。憲法制定時に同性婚の是非は想定していなかったと答えただけで、憲法が認めているか否かに言及していない。改憲が必要か、法整備で十分かの見解はないため、法整備でいいとも読める。
立民などが民法改正案を提出したのは改憲は不要という判断だからだ。2月には複数の同性カップルが同性婚の実現を求め、各地の地裁で国に集団訴訟を起こした。「同性婚を法律で認めないのは憲法が定める法の下の平等に違反」と主張し現憲法での対応を求める。憲法学者の江藤祥平上智大准教授は「憲法を改正しない限り同性婚は認められないとする見解は憲法学では少数だろう」と話す。
■各国で合法化の動き 27カ国・地域で世界GDP5割超
2019年6月時点で、同性婚は27の国・地域で合法化されている。2001年のオランダを契機にベルギーやスペインなど人権意識が強い欧州が多い。イスラム教国が多い中東に加え、アフリカ諸国はほとんど認めていない。
アジアでは5月に台湾が初めて認めた。中国や韓国、東南アジア諸国では法制化していない。日本は2018年の政府答弁書で「認めるべきか否かは、我が国の家族の在り方の根幹に関わる問題であり、極めて慎重な検討を要する」と答えた。渋谷区や豊島区など20程度の自治体が認める条例をつくり「パートナーシップ証明」を発行しているが、法的な裏付けはない。
同性婚の法制化を求めるNPO法人、EMA日本によると、同性婚を認める国・地域の国内総生産(GDP)は世界の52.7%を占める。同性愛者であることを公表している立憲民主党の石川大我参院議員は「優秀な海外人材がいても、同性婚ができないという理由で日本から台湾に拠点を移す人が出る可能性がある」と指摘する。
■改憲こだわらず議論を
経団連は2017年、競争力の強化に向けてLGBTQ(性的少数者)対策を求める提言をまとめた。優秀な人材がLGBTQの場合、法整備がされた国・地域に移り住んでしまうとの懸念があるからだ。石川大我参院議員は「経済界の方が政府よりも危機意識は高い」と話す。
与野党間ではこうした議論は乏しい。改憲か否か、ばかりが話題になっている。上智大の江藤祥平准教授は「法律レベルの問題をわざわざ憲法問題と位置づけてまで、国民の注目を引こうというのは誠実ではない」と批判的だ。とはいえ、せっかく議論が起きた問題だ。この際、与野党は憲法改正にこだわらず、法整備も含めて検討を始めたらどうだろう。「改憲ならいいが、改憲以外なら認めない」という理屈は筋が通らないはずだ。(黒沼晋氏)